2025.12.30
音楽で地域を元気に!一宮市のビッグバンド活動と部活動地域移行への挑戦
今回のサルーテラジオには、一宮市を拠点に音楽活動を通じた地域貢献に取り組む、ノースケリーミュージック代表の平井尚之さんをお迎えしました。平井さんは、17人編成の本格的なビッグバンド「尾州ジャズオーケストラ」を主催し、さらに小中学生を対象とした「尾州ジュニアウィンドオーケストラ」の立ち上げにも挑戦されています。

実は平井さんとは20年以上の付き合いがあり、当時はお互いサラリーマンでしたが、平井さんが「音楽の道に進む」と決意した姿を間近で見てきました。簡単な道ではないと分かっていながらも、その情熱に押されて応援してきた私としては、今日こうして活躍する姿を見られることが本当に嬉しいです。
ジャズオーケストラとは?ビッグバンドの魅力

17人編成の本格的なビッグバンド
尾州ジャズオーケストラは、正式には17人編成のビッグバンドです。ただし、実際の団員数は約30名。メンバーが入れ替わり立ち替わり参加しながら、月に3回の練習を重ねています。
編成は以下のような構成です:
- 木管楽器:サックス
- 金管楽器:トランペット、トロンボーン
- リズムセクション:ピアノ、ベース、ギター、ドラム
これはアメリカで発達したジャズの一形態で、クラシックの吹奏楽とは異なる独特の進化を遂げた音楽スタイルです。
ジャズの即興演奏とは
墨先生が「ジャズって即興のイメージがある」とおっしゃった通り、ジャズの大きな特徴は即興演奏にあります。平井さんの説明によると、これはヒップホップのラップに近い感覚だそうです。
ライミング(韻を踏むこと)のように、誰かのフレーズをモチーフに応用したり、特定のフレーズで盛り上がるポイントを作ったりと、一種のマナーやお約束があるのだとか。ビッグバンドにもソロパートがあり、そこで即興演奏が披露されます。ただし、17人全員が同時に即興をするわけではなく、一人ずつ順番に演奏するスタイルです。
年1回の定期演奏会は即完売!飲み放題ライブの魅力
尾州ジャズオーケストラの最大のイベントは、毎年6月に開催される定期演奏会です。会場は一宮市のi-ビル最上階のホールで、なんと飲み放題付きのジャズライブという斬新なスタイル。
昨年からは土日の2デイズ公演となり、各日200名のチケットがすぐに完売してしまうほどの人気ぶりです。「飲み放題をエサに私たちの演奏を聞かせる」という平井さんの冗談交じりの表現からも、気軽に音楽を楽しめる雰囲気が伝わってきます。
また、定期演奏会以外にも、一宮市内をはじめ、名古屋、岐阜など東海地方各地のイベントに積極的に出演されています。
なぜビッグバンドを立ち上げたのか?音楽を続ける場所の必要性

卒業後に楽器をやめてしまう問題
平井さんがビッグバンドを立ち上げた理由は、とてもシンプルかつ深い問題意識から生まれました。
サックス講師として多くの学生を教える中で、気づいたことがあったそうです。それは、中学・高校で吹奏楽部に所属していた生徒たちが、卒業後に楽器をやめてしまうという現実です。
若い時期に身につけた楽器演奏技術は、実は非常にレアなスキルです。大人になってから音楽経験ゼロで楽器を始めるのは難しいことを考えると、せっかく得た技術を手放してしまうのはもったいない。
部活動は確かに楽しい思い出を作る場所ですが、「学校の部活の延長」では、卒業と同時に音楽から離れてしまう人が多いのです。
大人が本気で遊べる場所を
そこで平井さんが考えたのは、部活ではない、自分たちが楽しめる大人が本気で遊べる場所を作ることでした。
クラシックの吹奏楽に比べて、ジャズのビッグバンドはアカデミックすぎず、シリアスな面はありながらも取っつきやすい音楽ジャンルです。そして何より、一人で演奏するよりも仲間と一緒に演奏する方が楽しく、長続きします。
「誰かと音楽を共有することで、サードプレイス(第三の居場所)として機能する」と平井さん。家庭でも職場でもない、もう一つの自分の居場所を持つことの大切さを語ってくださいました。
初心者でも大歓迎
尾州ジャズオーケストラは、ブランクがあっても、上手でなくても大歓迎だそうです。実際に、大人になってから楽器を始めて、平井さんのレッスンに5年通った後、団員としてソロを取るまでに成長した方もいるとのこと。
「やりたい」という気持ちがあれば、誰でも参加できる。それが尾州ジャズオーケストラの魅力です。
部活動地域移行という大きな課題

2024年から変わる学校部活動
平井さんが今、特に力を入れているのが「尾州ジュニアウィンドオーケストラ」の立ち上げです。これは小中学生を対象とした楽団で、来年から始まる部活動の地域移行に対応するための取り組みです。
2024年以降、学校の部活動は学校としての活動ではなくなり、大会にも出場できなくなります。練習時間も教員の勤務時間内に制限され、「やりたくてもやれる場所がない」という状況が生まれる可能性があります。
仮に先生が地域活動の受け皿として指導を続けたとしても、その先生が異動してしまえば状況は変わってしまいます。特定の学校に依存する形では、継続的な活動が難しいのです。
継続的にアクセスできる音楽団体の必要性
平井さんが目指すのは、どこの学校からでもアクセスできる、継続的に存在する音楽団体です。
学校に部活があるかどうかに左右されず、音楽を続けたい子どもたちが通える場所。それが尾州ジュニアウィンドオーケストラのコンセプトです。
「学校を卒業したら部活がない」という寂しい状況ではなく、地域に根ざした音楽活動の場を作ることで、子どもたちが継続的に音楽に触れられる環境を整えたいと語る平井さんの想いには、強い使命感が感じられました。
音楽活動を続ける上での課題
ボランティアではなく、適正な報酬を
平井さんが音楽活動を続ける上で直面している最大の課題は、金銭面のバランスです。
「ボランティアではないので、いくらかお金をもらわなければいけない」と率直に語る平井さん。しかし、アマチュアバンドや部活動の指導は、無料または低価格で行われるべきという認識が一般的に持たれているのが現状です。
特に部活動の地域移行においては、指導者に適正な報酬を支払う仕組みがまだ十分に整っていません。プレイヤーとしてのスキルを持ちながら、運営者としての役割も担わなければならない難しさがあります。
楽器購入費用の確保
尾州ジュニアウィンドオーケストラを立ち上げるにあたって、もう一つの大きな課題が楽器の購入費用です。
小さな楽器は個人で購入してもらえますが、ティンパニ、チューバ、木琴、鉄琴といった大型楽器は、家から持ってくることが現実的ではありません。これらは団体として用意する必要があり、それぞれ数万円から数十万円という費用がかかります。
地域企業との継続的なパートナーシップ
資金調達の方法として、クラウドファンディングも一つの選択肢ですが、平井さんが理想とするのは地域企業との継続的なパートナーシップです。
「年間いくら支援します」という形や、「この楽器を買ってください」という物品での支援など、絆創膏型のパートナーが増えることを望んでいます。
これまで学校の楽器には「〇〇中学校」と刻印されていましたが、それが地域企業の名前になることで、「この企業のおかげで今演奏できるんだな」と実感できる。それは子どもたちにとっても、企業にとっても意義深いことだと、嶋内代表も共感していました。
音楽がもたらす地域への効果
若者の地元愛着を育む
平井さんが語る「地域共生」の考え方は、非常に重要な視点です。
地域の大人たちが子どもたちの将来をしっかりサポートすることで、子どもたちは地元に対する愛着を持つようになります。そして卒業後、名古屋や東京に出るのではなく、尾張地区に住んで納税してくれる。そんな好循環を生み出す可能性が、音楽活動にはあるのです。
地域の文化的成熟度が上がる
墨先生も「趣味にもなるし、コミュニティ作りにも役立つ。絶対に満足度が高まって、街の民度が上がる」とおっしゃっていました。
音楽活動を通じて地域が豊かになる。それは経済的な豊かさだけでなく、文化的な成熟度や住民の幸福度にも繋がります。
ステージに立つことの特別さ
平井さんが音楽活動で大切にしていることは、ステージで演奏する側と見る側のベクトルの違いを共有することです。
聞く側は誰でもできますが、ステージに立って音楽を届けるのは特別な行為。その特別な体験を、いろんな人と共有しながら一緒に演奏していく。それが平井さんなりの音楽の届け方だそうです。
「ステージの高さが低くても、見ている景色が全然違う」という言葉が印象的でした。演奏する側になることで得られる感動や達成感は、音楽を続ける大きなモチベーションになります。
今後の展望 ー 若手の発掘と新団体の始動
平井さんの今後の目標は、大きく二つあります。
一つ目は、尾州ジャズオーケストラでの若手発掘。大人の団体の中に若い世代を取り込み、一緒に演奏する機会を増やしていくこと。
二つ目は、尾州ジュニアウィンドオーケストラの事業を軌道に乗せること。最初の資金確保が最も重要な課題ですが、クラウドファンディングや地域企業からの支援を得ながら、継続的に運営できる体制を整えていく予定です。
音楽で地域を元気にする挑戦

平井尚之さんの活動は、単なる音楽活動ではありません。それは、地域社会をより良くするための社会貢献活動であり、次世代を育てる教育活動でもあります。
部活動地域移行という大きな社会変化の中で、子どもたちが継続的に音楽に触れられる環境を作る。大人たちが本気で遊べる場所を提供する。そして地域企業と連携しながら、持続可能な音楽文化を育てていく。
そんな壮大な挑戦を、一宮を拠点に続けている平井さんを、サルーテは全力で応援しています。
もし吹奏楽部出身の方、音楽に興味がある方、地域貢献に関心がある企業の方がいらっしゃいましたら、ぜひ尾州ジャズオーケストラや尾州ジュニアウィンドオーケストラの活動に注目してみてください。
音楽の力で、一宮をもっと元気に。そんな想いが、確実に地域に広がっています。
サルーテラジオでは、地域の健康や文化に貢献する方々のお話を毎週お届けしています。一宮市本町2丁目、JUS一宮のJSスタジオからお送りしておりますので、ぜひお聴きください。
それでは、今週も皆様が健康であることを祈って。来週もよろしくお願いいたします。