2025.11.22
読書の秋に読みたい一冊『おいしいごはんが食べられますように』
こんにちは、サルーテ代表の嶋内です。今回は文正堂書店の平野さんに、芥川賞受賞作『おいしいごはんが食べられますように』をご紹介いただきました。

読書の秋、その由来は?
本題に入る前に、「読書の秋」という言葉の由来をご存知ですか?
実は随分昔から使われている言葉で、中国の韓愈という詩人が息子に宛てた詩の中で、「秋になって農作業が終わって空も晴れ、涼しさが訪れている。今こそ書物を広げるときだ」と歌ったことに由来します。この詩を明治時代の文豪が引用したことで、日本でも「秋は読書にぴったり」というイメージが広まりました。
さらに1947年に書店と図書館が中心となって「読書週間」が始まったことで、読書の秋という言葉が定着していったそうです。
表紙に騙された!?芥川賞受賞作
今回ご紹介するのは、高瀬隼子さんの『おいしいごはんが食べられますように』(2022年芥川賞受賞作)です。
この本を選んだ理由は3つ。
- タイトルと表紙の魅力:黄色と白のシンプルなイラストに、鍋にスープが入っているような温かい雰囲気
- 読みやすい薄さ:電車の中でもさっと読める手軽さ
- 帯の衝撃:そこには「職場ホラー小説」の文字が…!
表紙だけ見ると、家族の温かいお話かと思いきや、実は全く違う世界が広がっているんです。
物語の舞台は「職場」
主な登場人物は4人。
- 二谷:要領が良く、世渡りがうまい男性。食にはあまり興味がない
- 芦川さん:料理が得意で、皆に守ってあげたくなる雰囲気を持つ女性。二谷の恋人
- 押尾:二谷に想いを寄せている同僚。仕事ができる頑張り屋だが、二谷と芦川さんの関係には不満を持っている
- 藤:3人の上司
芦川さんは体調不良の日が多く、周囲は難しい仕事を回さないよう気を使います。しかし翌日には手作りのお菓子を職場のみんなに配る、そんな不思議な存在です。
一方、仕事ができる頑張り屋の押尾は、頭痛を我慢しながら仕事をこなす自分と、守られる存在の芦川さんとの扱いの違いに強烈な違和感を覚えます。
そんな中、二谷と押尾が残業後に居酒屋へ。そこで押尾は二谷に言います。
「私は芦川さんが苦手なんです。私と一緒に芦川さんに意地悪をしませんか?」
二谷は「いいよ」と応じますが、実は彼には秘密がありました。彼は芦川さんと付き合っていたのです。

現代社会の闇を映し出す
この物語は、現代の職場でよくある「配慮」と「不公平感」の狭間で揺れる感情を描いています。
道徳的には理解できても、自分が損をしていると感じてしまう気持ち。誰しも心のどこかで感じたことがあるのではないでしょうか。
3人それぞれの思いが描かれており、読みながら「自分はどの人の感情に近いだろう」と考えてしまいます。同調できる部分もあれば、イライラする部分もある。美味しそうな描写もあれば、なんだかまずそうに感じる描写もある。そんなカオスな感情が混ざり合い、最後にはゾワッとする結末が待っています。
タイトルの意味
「なぜこのタイトル?」と思う方も多いでしょう。実はこれ、物語を読み終えた後に高瀬さんが考えたタイトルだそうです。
表紙のスープのようなイラストも、実は「仕込み」のようなもの。このタイトルの本当の意味は、読んだ人にしかわからない深いメッセージが込められています。
紙の本ならではの楽しみ方
クライマックスに近づくにつれ、ページ数が少なくなっていく感覚。「え、どうやって終わるんだろう?」というドキドキ感は、電子書籍では味わえない紙の本ならではの魅力です。
こんな方におすすめ
- 働いている方:職場での人間関係に共感できる
- 学生の方:学校内の関係に置き換えても理解できる
- ママ友がいる方:保育園や学校の集まりで感じるモヤモヤに通じる
幅広い年齢層の方に楽しんでいただける作品です。

まとめ
『おいしいごはんが食べられますように』は、表紙の温かさとは裏腹に、現代社会の複雑な人間関係を鋭く描いた作品です。
「分かりみがすぎる」描写力は、さすが芥川賞受賞作。読書の秋に、ぜひ手に取ってみてください。自分の心の中にある、普段は出せない感情と向き合えるかもしれません。
書籍情報
- タイトル:『おいしいごはんが食べられますように』
- 著者:高瀬隼子
- 出版社:講談社(文庫版)
- 受賞:第167回芥川龍之介賞(2022年)
読書の秋を、この一冊とともに楽しんでみてはいかがでしょうか。
それでは、また次回の本のご紹介でお会いしましょう!