2025.09.01
なぜ私は乳がん専門医になったのか|じゅんこ乳腺クリニック 石黒淳子先生の想い
女性の健康を支える専門医として、一宮で乳腺専門クリニックを開業された石黒淳子先生。
サルーテラジオ第21回目のゲストとして、乳がん専門医になったきっかけから現在の取り組み、そして今後の展望まで語っていただきました。

女性医師が増える時代背景
医療現場の変化
20~30年前と比べ、女性医師の数は大幅に増加しています。特に女性患者にとって、女性医師の存在は心理的なハードルを下げる重要な要素となっています。子どもの診察でも、女性の先生の方が話しやすいという声が多く聞かれます。
乳腺外科の専門化
乳腺外科は従来、一般外科の先生が担当していましたが、治療法の高度化・複雑化に伴い、専門医が必要な分野として独立しました。国の政策もあり、乳腺専門クリニックが増加している背景があります。
乳がん専門医への道のり
運命を変えた一言
石黒先生が乳腺科を志したきっかけは、知り合いの女性の一言でした。若くして乳がんになったその方が「男の先生ばっかりで話せることが少ないのよね」と呟いたことが心に残り、「それなら私がやろう」と決意されました。
専門性の追求
学生時代から一貫した目標
- 学生時代から乳腺科一筋を決意
- 当時は乳腺科の認知度が低く、父親からも「普通の内科や外科も一緒にやった方が良い」と心配された
研修と専門性の向上
- 東京の乳腺治療で有名な癌研病院で研修
- 愛知県がんセンターで世界的に有名な専門医と連携
- 手術、治療、基礎研究、臨床試験など幅広い経験を積む
- 世界でまだ使われていない薬を日本の患者さんが使えるようにするプロジェクトにも参加

じゅんこ乳腺クリニックの特徴

専門特化型クリニック
2018年開業、現在7年目を迎える乳腺科専門クリニックです。愛知県では外科の中の一部門として扱われることが多い乳腺科を、完全に独立した専門科として運営しています。
診療の流れ

- 問診:看護師による詳細な問診
- 検査:マンモグラフィー、エコー検査
- 画像診断:専門の技師との画像ディスカッション
- 最終診断:石黒先生による総合診断
全女性スタッフ体制
患者さんの緊張を軽減するため、スタッフは全員女性で構成されています。ただし、男性の乳がん患者さんも受け入れており、心配な方はどなたでも受診可能です。

クリニック経営の理念と目標

地域完結型医療の実現
「一宮で生まれ育った私として、わざわざ名古屋まで行かなくても、一宮でちゃんとした専門的な診断と治療を受けられる」ことを最大の目標としています。
専門性による正確な診断
開業当初、一宮には乳腺専門クリニックがほとんどありませんでした。専門医による診察の重要性:
早期発見・早期治療
- 専門的な診断により治癒率の向上
- 見落としの防止
- 過剰診断の回避(不必要な検査や心配の軽減)
患者さんに寄り添う環境づくり
物理的な配慮
- 木材を使用した温かみのある内装
- 丸みを帯びたカウンター
- コーヒーの香りによるリラックス効果
心理的な配慮
- 「恥ずかしい」「行きづらい」「怖い」という気持ちの解消を重視
乳がん検診と自己チェック

検診の頻度
日本の検診ガイドライン
- 40歳以上:2年に1度(住民検診)
- データに基づき、乳がんで亡くなる方を減らす効果が証明されている
個別対応の推奨
- 心配が少ない方:2年に1度の住民検診
- 家族歴がある方:毎年の検診を推奨
- 早期発見には毎年の方が効果的
自己チェックの方法

チェックのタイミング
- 生理がある方:生理終了後1週間後
- 生理がない方:毎月決まった日(例:毎月1日)
チェック方法
- お風呂場でつるつると優しく触る
- 強く触りすぎないことがポイント
- 前回と違うと感じたら受診
住民検診の活用
一宮市在住で40歳以上の方は、2年に1回1,000円で乳がん検診を受けられます。症状がなくても気軽に受診できる制度です。
診療で心がけていること
正確な診断と治療
専門クリニックとして、また専門医として自信を持って正確な診断と治療を提供することが最優先です。
分かりやすい説明
患者さんが「よくわからないまま終わってしまった」ということがないよう、具体的な数字を使った説明を心がけています。
説明の例
- 「このしこりは90%良性ですが、念のため3ヶ月後に様子を見ましょう」
- 「乳がんの再発リスクは10%ぐらいですが、この薬を使うと半分に減らせます」
今後の展望 – データを超えた癒しの医療
新たな取り組み
石黒先生が現在注目しているのは、従来のエビデンス(データ)に基づいた医療を超えた、癒しの要素を取り入れた医療です。
背景
- 乳がん患者さんは精神的・身体的に様々な変化を経験する
- データだけでは対応できない部分がある
- 患者さんの心身の癒しが重要
具体的な取り組み
- マッサージの勉強を開始
- データだけでない癒しの要素を診療に取り入れる
- 患者さんと一緒に歩んでいける寄り添い型医療の実現
乳がんサバイバーへの配慮
乳がんを経験された方(サバイバー)は、病気をしたことがない人と比べて様々なストレスを抱えています。一般的なマッサージ店では「病気になったことがありますか」という質問に答えなければならず、心理的負担となることがあります。
石黒先生のクリニックでは、そうした事情を理解したスタッフが対応するため、患者さんは安心して癒しの時間を過ごすことができます。
開業7年目の振り返り

初期の苦労
開業当初は「何のために受診すれば良いかわからない」という声もあり、乳腺検診専門であることの理解を得るのに時間がかかりました。しかし、検診だけでなく手術後の患者さんのフォローも行うことで、徐々に地域に認知されていきました。
地域医療への貢献
一宮市で乳腺専門の医療を提供することで、患者さんが遠方まで行かずに済む地域完結型医療の実現に貢献しています。
よくある相談と対応
検査への不安
「マンモグラフィーを受けたくない」という相談も多くあります。また、乳がんと診断された際に「手術したくない」「薬も使いたくない」という相談もあります。
患者さんの選択を尊重
患者さんの選択を否定することはありませんが、治療しないことによるデメリットをしっかりと説明し、「再発してしまったら治らないから、今のうちに頑張って治療しましょう」と、患者さんの将来を考えたアドバイスを行っています。
まとめ
石黒淳子先生の「それなら私がやろう」という一言から始まった乳がん専門医への道。現在では、データに基づいた正確な医療に加え、患者さんの心身の癒しまで考慮した、より包括的な医療の提供を目指しています。
乳がん検診や気になる症状がある方は、まず自己チェックを行い、気になることがあれば気軽にじゅんこ乳腺クリニックにご相談ください。専門医による正確な診断と、患者さんに寄り添った丁寧な説明を受けることができます。
乳がんの早期発見・早期治療のため、定期的な検診を心がけましょう。一宮市民の方は住民検診もぜひご利用ください。