「食前」「食後」「食間」って、結局いつなの?
こんにちは、薬剤師・山本です。
調剤薬局で患者さんとお話ししていて、最もよく聞かれる質問の一つが「薬を飲むタイミング」について。処方せんには「食後」と書いてあるけれど、食べ終わってすぐなのか、30分後なのか。「食間」って食事の最中のこと?そんな疑問を持たれる方が本当に多いんです。
今日は、15年間薬剤師として患者さんと向き合ってきた経験をもとに、お薬のタイミングについて分かりやすくお話しします。処方せんの謎めいた指示の裏側には、ちゃんとした理由があるんですよ。

「食前」「食後」「食間」の正しい意味
まず、基本的な定義から整理しましょう。
食前は、食事の30分から1時間前です。「食直前」と書かれている場合は、食事の直前、つまり食べ始める5分から10分前を指します。この違いは重要で、例えば糖尿病のお薬の中には食直前でないと効果が発揮されないものがあります。
食後は、食事が終わってから30分以内。「食直後」なら食事が終わってすぐ、5分から10分以内です。多くの薬が食後に処方されるのは、食事によって胃が刺激から守られ、薬による胃腸障害を防げるからです。
そして食間。これが一番誤解されやすいのですが、食事の最中ではありません。食事と食事の間、つまり食後2時間から3時間後のことです。胃が空っぽに近い状態で、薬の吸収を良くしたい場合に指定されます。

絶対に守らなければいけないの?
「30分遅れてしまったら効果がなくなるの?」そう心配される方がいらっしゃいますが、そこまで神経質になる必要はありません。
ただし、薬によって厳密さの度合いが違います。血圧の薬や心臓の薬など、血中濃度を一定に保つ必要がある薬は、できるだけ決まった時間に飲むことが大切です。一方で、胃薬や便秘薬などは、多少のずれは問題ありません。
私がいつも患者さんにお伝えするのは、「完璧を目指さず、続けることを優先してください」ということ。薬を飲むことがストレスになって治療から離れてしまうより、多少のずれがあっても継続する方がずっと大切なのです。
薬を飲み忘れてしまったら
これも本当によくある相談です。
基本的な考え方は、「気づいた時点で次の服用時間まで4時間以上空いていれば飲む」こと。例えば朝8時に飲む薬を忘れて昼12時に気づいた場合、夜の服用が8時なら4時間以上空いているので昼に飲んでも大丈夫です。
ただし、絶対にやってはいけないのは「2回分を一度に飲む」こと。これは副作用のリスクが高まります。1回飲み忘れたくらいで治療効果が大きく損なわれることは少ないので、次回からきちんと飲むことを心がけてください。

どうしても判断に迷う場合は、処方してもらった薬局に電話で相談してみてください。薬剤師が薬の特性を踏まえてアドバイスします。
朝と夜で薬が分かれている理由
「なぜ血圧の薬は朝で、睡眠薬は夜なの?」これも自然な疑問ですよね。
人間の体には「体内時計」があり、血圧や体温、ホルモンの分泌などが24時間のリズムで変動しています。薬の処方は、この生体リズムを考慮して決められているんです。
血圧は朝方に上昇する傾向があるため、血圧の薬は朝に飲むことで一日を通して安定した効果が期待できます。一方、睡眠薬や一部の胃薬は夜に飲むことで、自然な睡眠リズムや胃の修復作用をサポートします。
また、薬によっては食事の内容によって吸収が変わるものもあります。朝食は軽めで夕食は重めという一般的な食事パターンも、処方設計の参考にされています。
薬との上手な付き合い方
最後に、薬剤師として患者さんにいつもお伝えしていることをお話しします。
薬は道具です。正しく使えば健康をサポートしてくれる大切な道具ですが、使い方を間違えると思わぬトラブルの原因にもなります。でも、完璧である必要はありません。
大切なのは、なぜその薬が処方されているのかを理解し、自分の生活リズムの中で無理なく続けられる方法を見つけること。そして、分からないことや心配なことがあれば、遠慮せずに薬剤師に相談することです。
私たち薬剤師は、患者さんが安心してお薬と向き合えるようサポートするのが仕事です。どんな小さな疑問でも構いません。お気軽に声をかけてくださいね。
薬のある生活が、皆さんの健やかな毎日の支えとなりますように。