【エンジョイブックス】東野圭吾の原点がここに。ブレイク前の3編を収めた『小さな故意の物語』
Video / Radio
再生して動画・音声を視聴する(YouTube)
Book
(本書は既刊短編の傑作選のため該当なし)
【エンジョイブックス】東野圭吾の原点がここに。ブレイク前の3編を収めた『小さな故意の物語』
こんにちは。サルーテの山本です。
このコーナー「エンジョイブックス」では、一宮市の文正堂書店・平野さんと一緒に、おすすめの本をご紹介していきます。
今回取り上げるのは、東野圭吾さんの『小さな故意の物語』。講談社文庫の新シリーズ「STORY IN POCKET」から刊行された、ブレイク前の短編3編を収めた一冊です。
収録作が書かれたのは、東野さんが20代から30代の頃。若き日の文章力に、あらためて驚かされる作品集でした。
災害の続いた夏に
収録したのは2026年8月20日。
先月の熊本での地震、8月に入ってからの千葉での豪雨と、災害が続いている状況でした。被害に遭われた方、ご家族を心配されている方には、心よりお見舞い申し上げます。
そしてその最中、7月27日に東野圭吾さんの訃報が発表されました。
僕自身、物心ついた中学生くらいの頃から折に触れて読んできた作家さんです。第一線を走られていた方の突然の訃報には、本当に驚きました。お悔やみとご冥福をお祈りいたします。
今回は、そんな東野さんの作品をご紹介します。

東野圭吾さんの歩み
まずは略歴から。
東野圭吾さんは1958年、大阪府のお生まれです。大阪府立大学工学部電気工学科を卒業後、エンジニアとして勤務しながら執筆を続け、1985年に『放課後』で第31回江戸川乱歩賞を受賞してデビューされました。
1999年には『秘密』で第52回日本推理作家協会賞を受賞。2006年にはガリレオシリーズの一作である『容疑者Xの献身』で第134回直木賞と第6回本格ミステリ大賞を受賞されています。
挙げればきりがないほど、さまざまな作品でさまざまな賞を受賞され、人気作家として不動の地位を築かれました。
デビューから発表された著書は、共著を除いて106冊。2026年8月5日に刊行された最新刊『永遠の記憶』が、事実上の遺作となりました。

「STORY IN POCKET」というシリーズ
今回ご紹介する『小さな故意の物語』は、講談社文庫から刊行されている「STORY IN POCKET」というシリーズの一冊です。
これは講談社文庫の創刊55周年を記念して2026年4月にスタートした企画で、講談社文庫を代表する著者の短編作品をセレクトし、読みやすい短めの作品集として再編集して刊行するというもの。
ポケットに入れて持ち運べるくらい気軽に、それでいて面白さは保証付き。価格は550円です。
「この面白さで550円」という煽り文句がついていて、確かにそのとおりだと感じました。
他の作家さんの作品も刊行されていて、赤川次郎さん、塩田武士さん、綾辻行人さん、宮部みゆきさんなどが続いています。

収録されている3編
『小さな故意の物語』には、東野圭吾さんがブレイクする前に書かれた3編が収録されています。
冷たい灼熱
東野さんが38歳の時の作品です。
帰宅すると妻が殺害されており、一歳の息子が行方不明になっている。若き日の加賀恭一郎と思われる刑事が捜査にあたり、被害者の夫とのやり取りや近隣住民への聞き込みから、事件を解決へと導いていきます。
しのぶセンセの推理
28歳の時の作品。
受け持ちの生徒の父親が殺害された事件に、先生の竹内しのぶが首を突っ込みます。関西弁の軽妙な会話と行動力で、事件の真相に迫っていく一編です。
小さな故意の物語
27歳の時の作品で、本書のタイトルにもなっている作品です。
親友の達也が校舎の屋上から転落死した。自殺と見られたものの、小学生からずっと一緒だった良と洋子は納得がいかない。事故なのか事件なのか、二人は真相を探り始めます。

192ページ、旅先に連れて行きたい一冊
本書は192ページ。1編あたり60ページ程度なので、本当にさらさらっと読めてしまいます。
講談社さんも「旅先に連れて行ってほしい一冊」と紹介されていましたが、まさにそんな感じです。空き時間にさらっと読める短編が3つ入った、ちょうどいいボリュームの一冊でした。
どれが好みか、意見が分かれました
3編のうちどれが好きだったか。これは平野さんと僕とで分かれました。
僕が挙げたのは、表題作の「小さな故意の物語」です。作品の作り、東野さんらしい世界観、そこにきちっとミステリーが設定されていて、謎解きもある。あらためて面白いなと感じました。
一方の平野さんが選んだのは、1話目の「冷たい灼熱」でした。
迫力という点では年齢的にまだまだなのかもしれないけれど、確かに東野圭吾らしさが出ている。謎が解けてみると、動機もトリックも案外単純だったりするのですが、東野さんの流れるような文章がそこに違和感を覚えさせない。そのまま読み進めてしまって、謎解きの時に「そう来たか」「そっちだったのか」というやられた感がある。
叙述トリックとまではいかないけれど、「ああ、こういう意味で言っていたんだね」と気づかされる。深読みすれば気づけたかもしれないけれど、そうさせない文章力が素晴らしい、というのが平野さんの評でした。
執筆時期が明記されている面白さ
この本の構成で面白いのが、各作品のタイトルの次のページに、その作品がいつ頃書かれたものかが記されている点です。
たとえば「冷たい灼熱」であれば、同じ年に『悪意』や『どちらかが彼女を殺した』を書いている、といった情報が添えられています。
「じゃあ、あの時代に書かれたんだ」と、作者の歩みを振り返りながら読める。読んだことのある作品を思い浮かべながら、「この時期の小説なんだ」と思いを馳せる。そんな読み方ができる作品集でした。
初期は本格推理小説だった
平野さんから聞いて意外だったのが、東野さんの初期の作風です。
デビュー当初は、暗号やアリバイといった要素を突き詰めた本格推理小説を書かれることが多かったそうです。それが1999年に『秘密』で受賞した頃から、作風に変化があったといいます。
本格推理のお約束ごとよりも、誰が殺したのか、なぜ殺したのかという部分に重点を置いた作品が増えていった。そこに社会的背景がテーマとして織り込まれている作品も、徐々に増えていったようです。
僕が読んだ範囲でも、そこまで凝った仕掛けのトリックは多くない印象でした。むしろ、そこに至るまでの動機であったり、心理であったり、人間模様であったり。そういったところで読ませる小説になっている。
一口に括ればミステリーなのですが、どちらかというと人間ドラマという印象を受ける作品が多いように思います。
二人とも『白夜行』から入った
東野作品との出会いについても話しました。
平野さんは本屋さんで生まれ育ったものの、あまり本を読んでこなかったそうです。そんな中で出会ったのが『白夜行』。
全く読めなかった自分が、あんなに分厚い本を一気読みできてしまった。本ってこんなに面白いんだと思わせてくれた、初めての作家さんだったといいます。今でも『白夜行』はいろいろな人にすすめているそうですが、その厚さを見てみんな尻込みしてしまうのだとか。
実は僕も『白夜行』からでした。ちょうど中学生くらいの時に初めて手に取って、まず読み切った達成感がすごかったのを覚えています。こんなに分厚い本を読めたという感動と、この作家さんは面白いという発見。そこから『秘密』をはじめ、有名な作品を読ませてもらうようになりました。
最近ではブラックショーマンシリーズも読みました。そこから入っている身としては、初期に本格推理小説を書かれていたというのは意外でしたね。
『白夜行』も、震災があった頃の話が絡んでくるので、社会的背景を含めて本当にうまく引き込まれる。すごい作品だと思います。

平野さんが意外だった一冊
平野さんから「東野さんがこんなものを書くんだ」と意外に思った作品として挙がったのが、『超・殺人事件』です。
主人公は推理小説作家。執筆にあたっての苦労話や、業界への不満や批判を織り交ぜつつ、ミステリーとして書かれている作品だそうです。
作家目線から見た裏側のミステリー。そんな切り口の作品もあるんですね。僕は未読だったので、ぜひ読んでみたいと思いました。
若き日の文章力に驚かされる
読み出したら止まらない。これだけ人気のある作家さんが亡くなられたのは、本当にショックですし、惜しいという気持ちになります。
遺作となった『永遠の記憶』も映像化の話が出ていたと思いますので、それを待ちながら、これまでどういった作品を書いてこられたのかを振り返ってみるのもいいのではないでしょうか。
そして何より、この『小さな故意の物語』を読んで感じたのは、27歳でこの文章力なのかという驚きです。若き日の時点ですでにこれだけのものを書かれていた。本当に素晴らしい作家さんだったとあらためて思います。
全作品を読破していきたい。そんな気持ちになる一冊でした。
これからもエンジョイブックスでは、魅力的な本や話題の本、旬の本を紹介していきますので、チャンネル登録、高評価、感想のコメントなどもよろしくお願いいたします。
それではバイバイ。

著者プロフィール
東野 圭吾(ひがしの けいご)
1958年2月4日、大阪府大阪市生まれ。小説家。大阪府立大学工学部電気工学科を卒業後、エンジニアとして勤務しながら執筆を続け、1985年に『放課後』で第31回江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。
1999年『秘密』で第52回日本推理作家協会賞、2006年『容疑者Xの献身』で第134回直木賞および第6回本格ミステリ大賞、2012年『ナミヤ雑貨店の奇蹟』で第7回中央公論文芸賞、2013年『夢幻花』で第26回柴田錬三郎賞、2014年『祈りの幕が下りる時』で第48回吉川英治文学賞を受賞。2019年に第1回野間出版文化賞、2023年に第71回菊池寛賞、2024年に日本ミステリー文学大賞を受賞し、2023年には紫綬褒章を受章。2009年から2013年まで日本推理作家協会の理事長を務めた。
加賀恭一郎シリーズ、ガリレオシリーズをはじめ、『白夜行』『容疑者Xの献身』『ナミヤ雑貨店の奇蹟』など多くの作品が映像化されている。2026年7月23日逝去。著書は共著を除いて106冊を数える。
書籍情報
タイトル:小さな故意の物語
著者:東野 圭吾
出版社:講談社(講談社文庫「STORY IN POCKET」)
発売日:2026年4月15日
ページ数:192ページ
定価:550円(税込)
ISBN:978-4-06-543394-2
収録作品:冷たい灼熱/しのぶセンセの推理/小さな故意の物語
シリーズについて:講談社文庫創刊55周年を記念した企画「STORY IN POCKET」の第1弾。代表的な著者の短編作品をセレクトし、持ち運びやすいサイズと550円という価格で刊行するシリーズです。
文正堂書店 店舗情報
エンジョイブックスにご協力いただいている、一宮市の文正堂書店さんの情報です。
店名:文正堂書店(ぶんしょうどうしょてん)
本店所在地:〒491-0043 愛知県一宮市真清田1-1-4
電話番号:0586-72-2605
FAX:0586-73-1625
営業時間:月曜〜土曜 9:00〜20:00/祝日 10:00〜19:00
定休日:日曜日
アクセス:尾張一宮駅東口から徒歩約7分、真清田神社のすぐそば
店舗:真清田の本店、昭和の昭和店の2店舗を営業
サービス:一宮市内の雑誌配達、小学・中学・高校の教科書取扱、ゴールデンチャート取扱
公式サイト:https://www.bunshodo.net/

Village — この記事に関連する場所
Professional
平野静江
文正堂書店 はじめに 一宮市の真清田神社近くにある文正堂書店。明治時代の創業から4代にわたって地域の人々に愛され続けてきた老舗書店です。 現在は4代目の弟さんが代表を務め、平野さんが取締役として店舗運営に携わっています。今回は平野さ […] プロフィールを見る →

文正堂書店・平野さんより
東野圭吾がブレイクする前に書いた短編3編を収録。27歳でこの文章力かと驚かされます。192ページ550円、空き時間にさらっと読める一冊。