精神 · Mental サルーテ編集部

Petite amie et Coffre à jouet オーナーシェフ・今村泰久さんインタビュー|生きていく上でのヒントを探る

「美味しいもの食べると、単純に幸せにならないですか」

名古屋市千種区・池下にあるフレンチレストラン「Petite amie et Coffre à jouet(プチタミエコッフールアジュエ)」。カウンター越しにお客様と会話を交わしながら、目の前で料理が仕上がっていくライブ感が魅力の一軒です。ホテルニューオータニ大阪での修業、フランスでの研鑽を経て、計20年のキャリアを積み上げてきたオーナーシェフの今村泰久さん。今回は、サルーテの理念であるウェルネス・ウェルビーイングの観点から、料理への想いや食と健康についての考え方をお聞きしました。

Petite amie et Coffre à jouet(プチタミエコッフールアジュエ)

台所に立った少年時代が、料理人への入り口だった

料理人を目指したきっかけを尋ねると、今村さんは意外なほど素朴なエピソードを話してくれました。

「幼い頃、共働きの家庭で。学校から帰ってもいないことが多かったんです。お腹がすくと、ご飯を作ろうと思ったら自分で作るしかない。作っているうちに、興味が湧いていったんですよね」

誰かに教わったわけでも、憧れがあったわけでもない。空腹を満たすために立った台所が、そのまま今村さんの人生を決める場所になりました。

その後、ホテルニューオータニ大阪で3年間の修業を積み、渡仏。フランスでの2年間のうち1年は、当時ミシュラン一つ星だった「La maison jaune」で腕を磨きました。帰国後は大小さまざまなレストランを渡り歩き、計20年の経験を重ねた末、2024年2月に自身の店をオープンしました。

プチタミエコッフールアジュエの店内

「その人のことを思って作る」——料理の根っこにあるもの

料理を作る上で特に大切にしていることを尋ねると、返ってきたのは技術論ではありませんでした。

「思いやり、じゃないですけど。その人のことを思って作る。そうすると、味見もちゃんとするし、勝手に美味しくなるというか、まずいものは出さないかなって」

誰かのために作るという意識が、自然と一皿の精度を高めていく。カウンター越しにお客様の顔を見ながら料理をする今村さんのスタイルは、この考え方と地続きにあります。

生産者に会いに行く。食材選びのこだわり

食材選びについて聞くと、今村さんはこう答えます。

「できるだけ生産者さんには関わりたいなというのがあって。作っている人に会ったり、その人の思いを聞いて、そういう食材を中心に使うようにしています」

その姿勢を象徴するのが、山口県産の無角和牛です。生産地である阿武町まで足を運び、「使わせてください」と直接懇願して仕入れを実現させました。

なぜ無角和牛だったのか。そこには、お客様を見据えた明確な理由がありました。

「まず赤身のお肉であること。うちのお店だと年配の層が多くなってくると思うので、黒毛の脂っこいものよりも、赤身のあっさりとした、ちゃんと味がして、なおかつくどくないもの。そう考えると赤身のお肉だなと思って、探していて出会ったという感じですね」

野菜も同様です。基本的に契約農家から仕入れ、自然農法や有機栽培にこだわる生産者を選んでいます。「変なものは絶対に使っていない農家さん」——そう語る今村さんの言葉には、素材への信頼が食事の質を決めるという確信があります。

スペシャリテは、なんとスープ

看板メニューを尋ねると、思いがけない答えが返ってきました。

「当店のスペシャリテが、実はスープなんです」

秋から春にかけて、常に提供されているのがコンソメスープ。餌や飼育環境にまでこだわって育てられた名古屋コーチンから取ったコンソメと、マッシュルームから取った出汁を合わせた「ダブルコンソメ」です。

「一応それがスペシャリテなので、ぜひ食べてもらいたいなという感じですね」

華やかなメイン料理ではなく、素材の力と手間を注ぎ込んだ一杯のスープを看板に据える。そこに、今村さんの料理観が凝縮されています。

「ワンオペに見えない」が、嬉しい

ワンオペに見えないフレンチ

お客様から言われて一番嬉しい言葉を尋ねると、今村さんは少し考えてから笑いました。

「美味しいって言われるのはもちろん単純に嬉しいですし。でも、『ワンオペに見えない』って言われるんですよ。それは嬉しいですね」

カウンターの中でひとり、次々と料理を仕上げていく手際の良さ。中には「ダンスを見ているみたい」と表現するお客様もいるそうです。

「そうやって言われると、嬉しいですね」

料理の味だけでなく、作る過程そのものがお客様を楽しませている。カウンター越しのライブ感を大切にするこの店ならではの、特別な褒め言葉です。

体にやさしいフレンチのために

体にやさしいフレンチ

フレンチというと少しリッチなイメージもありますが、今村さんは健康面への配慮も欠かしません。

野菜は自然農法・有機栽培にこだわる契約農家から。パンは自家製で、小麦は基本的に国産のものを使用しています。そのパンの中でもユニークなのが、竹炭を使ったシフォンです。

「竹炭が体の油を吸着して出すという作用があるらしいので。気休め程度ですけど、お客さんに『気にしないでください』と言っています」

コースを気兼ねなく楽しんでほしい——そんな気遣いが、メニューの細部にまで行き届いています。

「美味しいものを食べると、幸せになる」

体にやさしいフレンチ

シェフにとって「美味しいものを食べる」ということは、人の心にどんな意味があるのか。今村さんの答えは、驚くほどシンプルでした。

「単純に、美味しいもの食べると幸せにならないですか。そこを与えられて、幸せな気分になってもらえたらいいかなと思います」

そして、食べることと健やかに生きることのつながりについて。

「(体は食べたもので)作られるので、そこは絶対大事だと思っています。皆さん、いいものを食べてください」

複雑な理屈ではなく、実感としての言葉。20年間、人が食べるものを作り続けてきた人だからこその重みがあります。

ウェルビーイングな生き方のヒント

今村さんとの対話から見えてきたのは、食を通じた豊かさへのシンプルな向き合い方でした。

  • 誰かのことを思って作る:相手を思う気持ちが、自然と質を高めていく。
  • 作り手に会いに行く:素材の背景を知ることが、信頼できる食につながる。
  • 食べる人に合わせて選ぶ:流行や見栄えではなく、その人が心地よく食べられるかを基準にする。
  • 手間をかけたものに価値がある:一杯のスープに注がれた時間が、特別な体験をつくる。
  • いいものを食べる:体は食べたものでできている。だからこそ、選ぶことが健やかさにつながる。

「皆さん、いいものを食べてください」——今村さんのこの言葉は、日々の食卓と向き合う私たちへの、まっすぐなメッセージです。


今村泰久(いまむら・やすひさ)|Petite amie et Coffre à jouet オーナーシェフ ホテルニューオータニ大阪で3年間修業した後、渡仏。フランスでの2年間のうち1年は、当時ミシュラン一つ星の「La maison jaune」で研鑽を積む。帰国後は大小さまざまなレストランを経験し、計20年のキャリアを重ねたのち、2024年2月に「Petite amie et Coffre à jouet」をオープン。生産者との関係を大切にした食材選びと、カウンター越しのライブ感あるスタイルで、非日常の食体験を届けている。

店舗情報 Petite amie et Coffre à jouet(プチタミエコッフールアジュエ)

  • 所在地:〒464-0067 愛知県名古屋市千種区池下2-2-17 KAREN池下1F
  • アクセス:地下鉄東山線「池下駅」より徒歩約1分
  • 電話:052-753-5833
  • 営業時間:11:30〜14:00(L.O.13:00)/18:00〜23:00(L.O.20:00)
  • 定休日:月曜日・不定休
  • 公式サイト:https://petite-amie-et.jp/
  • ※完全予約制/高校生未満のご入店はお断りしています(貸切の場合は要相談)

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